[評]スウィーニー・トッド(ホリプロ)

狂気から愛へ疾走

ティーブン・ソンドハイムが作詞・作曲した1979年のブロードウェー・ミュージカル。殺人鬼が主人公という点で「オペラ座の怪人」の、歌ですべての感情表現を試みている点で「レ・ミゼラブル」の源流とも言えそうな佳作。復讐(ふくしゅう)と愛に彩られた、陰影の深い物語が展開される。

 舞台は18世紀末のロンドン。無実の罪で島流しにあった理髪師が脱獄し、スウィーニー・トッド市村正親=写真右)と名前を変えて街に戻ってきた。自らを陥れた判事(立川三貴)らへの仕返しを胸に、パイ店のおかみ(大竹しのぶ=同左)の協力を得て店を再開。客を次々とカミソリの餌食にしていく。

 トッドに復讐の大義はあるものの、負の狂気は生半可ではない。鼻歌を口ずさみながらノドを切り、死体を物扱いし、ワルツを踊りながら人間を焼却炉に投げ込む。その姿は正視できないほどだ。

 演出・振り付けの宮本亜門は、狂気に駆られた男の恐怖を、黒い笑いギリギリのところで走り抜け、もう一方の核となる愛に、ドラマを収束させていく。トッドとおかみ、若い男女、親子の愛、そして人間愛。

 後味のいい芝居ではないが、愛の力を前面に押し出し、希望を見いだそうとしている点に救いがある。

 音楽は一つの感情で歌い上げることが許されない、難曲ぞろい。市村は正面から挑み、悩み苦しみ激情に駆られるトッドに生命力を宿した。欲を言えば、負のエネルギーの持続力か。

 貫録たっぷりで存在感のある大竹、堂々たる敵役の立川をはじめ、キムラ緑子武田真治ら、芝居巧者の配役が舞台に厚みを加えた。中でも、トッドの娘を演じたソニンの歌声が新鮮で、今後を期待させる。

(杉山弘)

 ――29日まで、日比谷・日生劇場
YOMIURI ONLINEより

ありがたい評価に感激です!
もう一度観たいが、叶わぬ夢・・・。
あとはDVD化に期待。だけどDVD化するにあたって「キチ○イ」などの差別用語は問題になりそうな・・・。